欧州の展示会を商談につなげるには? 会期前・会期中・会期後にやること
公開 2026年10月4日読了 約8分著者 貴志 優紀(YKBridge 代表)
欧州の展示会の成果は、会期前に8割決まります。欧州の展示会は「見つけてもらう場」ではなく「会う約束を実行する場」で、来場者も出展者も事前にアポを入れて動きます。出展するかどうかより、6〜8週間前に候補企業へアポを打診し、ブースや会場では3分で相手を絞り込み、その場で次の日程を押さえ、会期後48時間以内に個別にフォローする、という設計の方が結果を左右します。初年度は出展せずに来場してアポだけを組む方が、費用対効果が高いことも多い。名刺を集めて帰国し、本社で検討する、という日本のやり方が最も失敗します。
欧州の展示会に出て、名刺を100枚持ち帰った。帰国後に本社で検討して、お礼のメールを送った。半年たって、商談は一件も進んでいない。
この話を、私たちは何度も聞いています。原因はブースの出来でも、製品の魅力でもありません。欧州の展示会の使い方が、日本の展示会の使い方と違うことにあります。
この記事では、出展するか来場するかの判断、業界別の主要展示会、会期前・会期中・会期後にそれぞれ何をするかを、現地で日本企業の展示会対応を担う立場からまとめます。
欧州の展示会は、日本の展示会と何が違うのか?
いちばん大きな違いは、欧州の展示会が「見つけてもらう場」ではなく「会う約束を実行する場」だということです。
ドイツの Messe に代表されるように、欧州の主要展示会では、出展者も来場者も会期の数週間前からアポイントを入れて動きます。購買担当者は会う相手のリストを持って会場に来て、ブースでは挨拶の次に用途と価格の話が始まります。ブースで初めて見かけて立ち寄る、という来場者がいないわけではありませんが、商談につながる接点の多くは事前に組まれたものです。
二つ目の違いは、速さです。会期中にその場で次の打ち合わせの日程を決め、会期後は数日以内にメールが来ます。「持ち帰って検討します」は、日本では丁寧な返事ですが、欧州では「興味がない」の合図として受け取られます。
三つ目は、ブースに立つ人に求められる役割です。来場者は、目の前の人が質問に答え、価格の目安を言い、次の一歩を決められることを期待します。通訳を介して「本社に確認します」と答える役割の人しかいないブースは、丁寧に扱われたうえで、次に進みません。
この三つを踏まえると、展示会の成果は、会期前の準備と会期後の数日でほぼ決まる、ということになります。
出展すべきか、来場して商談だけを組むべきか?
日本企業からの相談で最初に出る問いです。私たちは、次の三つが揃っていなければ、初年度は出展しないことを勧めています。
一つ目は、欧州の見込み客のリストがすでにあること。出展の価値は、そのリストの相手を「ブースに来てもらう」形で効率よく会えることにあります。リストがなければ、ブースは待つ場所になります。
二つ目は、ブースで見せられるものがあること。デモができる製品、触れる実物、動く映像。パネルと会社案内だけのブースは、欧州では素通りされます。
三つ目は、英語で商談できる人を会期中ずっとブースに置けること。
揃っていない場合は、来場者として行き、事前に組んだアポイントを軸に会場を回る方が、初年度の費用対効果は明らかに高い。渡航費と入場料で済み、相手の出展ブースを訪ねれば、相手の製品と担当者を一度に把握できます。この形で商談化した件数を見てから、翌年に出展を判断する。この順番が、失敗の少ない進め方です。
JETRO などが運営するジャパンパビリオンは、費用と設営の負担を抑えて出展できる良い選択肢です。ただし「日本企業の一社」として見られやすい点は意識しておく必要があります。パビリオンに出るときこそ、事前のアポイントで「御社に会いに来る」相手を作っておくことが重要です。
業界別に、どの展示会が候補になるか?
欧州の展示会は数が多く、業界ごとに「ここに出なければ話にならない」という定番があります。代表的なものを挙げます。開催時期はおおむね毎年同じですが、年によって前後するので、必ず公式サイトで確認してください。
| 業界 | 展示会 | 開催地・時期 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 製造業・産業技術 | Hannover Messe | ハノーファー(ドイツ)、毎年4月 | 産業技術の最大規模。自動化、エネルギー、部品、デジタル化。日本からの出展も多い |
| 製造業・自動化 | SPS | ニュルンベルク(ドイツ)、毎年11月 | 制御・自動化に特化。装置メーカーと部品メーカーの商談の場 |
| 物流・サプライチェーン | LogiMAT | シュトゥットガルト(ドイツ)、毎年3月 | 倉庫・物流システム。欧州の物流企業の購買担当が集まる |
| 金融・フィンテック | Money20/20 Europe | アムステルダム(オランダ)、毎年6月 | 欧州の金融機関・決済・フィンテックが一堂に。事前アポイントの文化が特に強い |
| テクノロジー・SaaS | Web Summit / VivaTech / Slush | リスボン・11月 / パリ・6月 / ヘルシンキ・11月 | スタートアップと大企業の接点。投資家やメディアも多い。製品より人に会う場 |
| 通信・モバイル | MWC Barcelona | バルセロナ(スペイン)、毎年3月 | 通信事業者と端末・ネットワーク。大企業の意思決定者が集まる |
| ヘルスケア・医療機器 | MEDICA | デュッセルドルフ(ドイツ)、毎年11月 | 医療機器の世界最大級。代理店・ディストリビューターとの接点に強い |
| エンターテインメント・ゲーム | gamescom | ケルン(ドイツ)、毎年8月 | 一般来場者向けの会場と、業界向けの商談エリアが分かれている |
展示会を選ぶときの基準は、来場者数ではなく、「御社の買い手になる人が、購買の目的で来ているか」です。業界の中で大きい展示会より、御社の製品を買う部門の担当者が集まる専門展の方が、商談化率は高くなります。
会期前に何をするか?
成果の8割はここで決まります。会期の6〜8週間前から、次の順で進めます。
候補企業を選ぶ。 出展者リストと、公開されている来場者・登壇者の情報から、御社の製品を買いうる企業を20〜30社選びます。相手の欧州拠点、担当部門、直近の動きを調べ、「なぜ御社が相手にとって意味があるか」を一文で書けるようにします。
アポイントを打診する。 LinkedIn かメールで、短い英文を送ります。長い会社紹介は読まれません。「私たちは何をする会社で、御社のどの課題に関係があり、会期中の何日の何時に15分いただけないか」。この三点だけで足ります。15〜20件打診して、5〜8件のアポイントが取れれば十分です。返事がない相手には、会期の1週間前にもう一度だけ送ります。
資料を一枚にする。 英語の1ページ資料を作ります。製品が何をするか、誰が使っていて、何がどう変わったか、価格の考え方、次の一歩。日本向けの会社案内を英訳したものは使えません。相手が社内で転送できる形が条件です。
価格と条件の答えを決めておく。 欧州の商談では、最初の15分で「おおよそいくらか」「欧州での納期・サポートはどうなるか」「契約はどの法人と結ぶのか」が出ます。ここで「持ち帰ります」と答えると、そこで終わります。幅のある答えで構わないので、その場で言える準備をしておきます。
ブースの役割を決める。 出展する場合、ブースに立つ人の役割を「商談する人」「デモをする人」「記録する人」に分けます。全員が名刺を集める役割では、会期後に誰が誰と何を話したかが分からなくなります。
会期中はどう動くか?
ブースでも、来場でも、原則は同じです。
3分で絞り込む。 相手が何をする会社で、どの部門で、何を探しに来たのか。この三つを最初の3分で聞きます。御社の製品の説明を先にしてはいけません。相手の答えによって、見せるものと話すことを変えます。
その場で次を決める。 興味のある相手とは、会期後のオンライン打ち合わせの日程を、その場でカレンダーを見ながら押さえます。「後日ご連絡します」より、「来週の火曜か水曜、どちらが良いですか」の方が、商談化率は何倍も違います。
名刺より LinkedIn。 名刺はもらいますが、その場で LinkedIn でつながります。会期後のフォローアップの返信率が明らかに違います。
夕方のイベントに出る。 主要展示会には、会期中の夕方に業界のレセプションやディナーが数多くあります。ブースよりも、ここで決裁者に会えることが珍しくありません。
毎晩、記録する。 誰と、何を話し、次に何をするかを、その日のうちに一覧にします。翌日になると、半分は思い出せません。
会期後のフォローアップはどうするか?
ここで日本企業の多くが失速します。
48時間以内に、個別に送る。 会った全員に、会期後48時間以内にメールを送ります。一斉送信ではなく、その人と話した内容を一文入れた個別のメールです。「御社の○○の件、会期中にお話しした資料を添付します」。この一文があるかないかで、返信率が変わります。
1週間以内に、打ち合わせを行う。 会期中に押さえた日程で、オンラインの打ち合わせを行います。ここで相手の課題を詳しく聞き、提案の形を決めます。
本社の検討で止めない。 「持ち帰って本社で検討し、来月ご連絡します」という流れが、欧州では最も多い失敗です。相手の熱は2週間で冷めます。本社の判断が必要な事項は、会期前に判断の基準を決めておき、現場で答えられる範囲を広げておきます。
3ヶ月のフォローの計画を持つ。 一度の打ち合わせで決まる商談はほとんどありません。2週間ごとに、相手にとって意味のある情報(事例、資料、関連するニュース)を添えて連絡を続け、3ヶ月で提案か見送りかを決めます。
翌年の判断は「商談化した件数」で。 名刺の枚数やブースの来場者数ではなく、会期後3ヶ月の時点で商談が進んでいる件数で、翌年の出展を判断します。
よくある失敗は?
最後に、よく見る失敗を挙げます。
名刺を集めて帰国すること。会期後のフォローが遅れ、相手は御社を思い出せません。
決裁者も商談できる人もブースにいないこと。通訳と若手だけのブースは、欧州の来場者には「商談する気がない」と見えます。
資料が日本向けのままなこと。会社の歴史や組織図より、相手にとって何が変わるかが先です。
価格を言えないこと。幅のある答えで構いません。言えないブースは、次に進みません。
ジャパンパビリオンで埋没すること。パビリオンに出るなら、事前のアポイントで「御社に会いに来る」相手を作っておくことです。
展示会は、欧州の見込み客に短期間で会える、最も効率の良い場です。その効率は、会期前の6週間と会期後の48時間に、どれだけ手をかけたかで決まります。
この記事に関するよくある質問
展示会と広さによって大きく違いますが、欧州の主要展示会で9〜12平方メートルの小さなブースを出す場合、出展料、装飾・設営、渡航・宿泊、資料を合わせて300万〜800万円程度が一つの目安です。来場してアポイントだけを組む場合は、渡航費と入場料で済むので、その5分の1以下に収まります。初年度は後者で始め、商談化の実績を見てから出展を判断する会社が増えています。
費用を抑えて出展でき、集客や設営の負担も軽いので、初出展には有効です。一方で「日本企業のひとつ」として見られやすく、自社の名前で記憶されにくい面があります。パビリオンに出る場合こそ、事前のアポイントで「御社に会いに行く」相手を作っておくことが大切です。
できます。ただし、ブースに立つ人が英語で質問に答え、価格や条件の話にその場で応じられることが条件です。通訳を介して本社に持ち帰る形だと、欧州の来場者は次に進みません。英語で商談できる人を社内に置けない場合は、現地で商談を担うパートナーをブースに入れる方法があります。
出展計画と展示会の選定、出展者・来場者リストからの候補企業の抽出と事前のアポイント取得、ブース設営の手配、会期中のブースでの商談対応、会期後のフォローアップと商談の推進まで、必要な範囲で担います。出展せずに来場して商談だけを組む形にも対応しています。